知らない女性に会う

夫婦とりかえ物語 #4

知らない女性に会う、ということに、ひどく緊張している自分に気づく。

ジェンダーレスを叫ばれる時代ではあるけれど、異性と接するのは緊張する。

職場には女性は数人しかいなくほぼ毎日、同性としかコミュニケーションしていない。

定期的に連絡を取り合うような女性の友人ももちろんいない。

女性と何の会話をすればいいのか。

ましてやはじめましての女性と会話をしたのがいつか、もう思い出せない。

そしてはじめましてではない。

高雄、つまり取り替えている今の均にとって妻を迎えに行くのである。

不安が押し寄せてくるが、待ち合わせの時間もまた押し寄せてくる。

「そうだった、連絡先もわからないんだ。遅れたらもっと大変なことになる」

EV車のアクセルをはじめて踏み込む。音もなく車が動き出す。

「そうだった、こんなEV車のSUVを運転してみたかったんだ。

いい車だなあ」

道に出て、グッと踏み込むと景色が伸びるような感覚があった。素早い加速のせいだ。

「EVはトルクがあるから最初の踏み込みはゆっくり・・・、

最初の踏み込みはゆっくりだ」

均は、駅へ急いだ。駅に着いた。

通勤、通学に急ぐ人たちで駅はまだ人通りが多い、ターミナルの車よせに止める。

送りの車がひっきりなしに寄せては返す。

車で駅まで送迎している家族って結構いるんだな、などぼーっと考えていた。

すると、助手席の窓をコンコンと叩かれた。

ドキッとして我に帰った。

そうだった、奥さんを迎えにきていたのだ。

心臓の鼓動が早くなり、動悸がする。恐ろしくて、すぐには振り返れない。

またコンコンと叩かれた

「ドア、閉まってるよ」

と外から女性の声がした。

ドアを開けるしかない、決心してドアのロックを解除した。

ここまで来てしまったら、もうやれるだけやるしかない。

「あ、ああ、ごめん」

声が裏返ってしまった。高雄はこんな声は出さないかもしれない。

あたふたとしながら、振り返った。

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