ルーピー狩り #3
「ああいう女には、天誅だ」黒い影がのそりと動く。
「そうだ。罰を加えなければならない」またもう一つ。
「ルーピー狩りだ!」三つの影はズルズルと灼熱の日向へと踊りでた。
一人の男がまずは走り出す。そして十分に加速をつけてから、手に持っていたスケートボードを地面に設置して脚で地面を蹴る。この暑いのにデニムの上下に身を包んだ男は、ずり落ちる眼鏡を一生懸命に直しながら、スケボーで追いかける。
もう一人の男は、電動ではないキックボードだ。子どもが乗るようなキックボードを全力で蹴って進める。おでこ全体を隠し目にかかるような前髪のマッシュルームヘアが乱れないように気にしながら、ビッグシルエットのTシャツをたなびかせてキックボードを漕ぐ。
最後の男は、ローラーブレードを履いていた。颯爽と両足を繰り出し、先にスタートした二人にすぐに追いつく。その二人を追い抜かし、イクミとの距離を縮める。
「拙者がまず先にいくでござる!」
「飯田氏、まずは頼んだでござる!」
飯田氏と呼ばれたローラーブレード男は、レモンイエローのTシャツを灼熱の太陽の下でキラキラと輝かせながら、おでこから目元まですっぽり隠れるような黒くて太いヘアバンドをぐっと下げた。
「ターボブーストオン」そう叫ぶと、もっと全力でローラーブレードの脚を繰り出した。
「は、速い。飯田氏のローラーブレードはもはや神話の領域だ」
「神々しい」
後ろの男達が口々に賞賛の声を上げているが、風を切る飯田の耳には入らない。飯田は今、風になっているのだ。
この商店街と平行するように走る裏路地は、かなりのロングストレートだ。はたして、法定速度を超えるルーピー女を捕らえることができるか、飯田は自分の脚の限界と、ルーピー女の距離をシミュレーションした。
「次の路地までには確実に追いつく!」飯田のスーパーコンピューターがシミュレーション結果をたたき出した。
距離が近づくにつれ、飯田はルーピー女の背中が見えてきた。
「う、薄着だと思ったけど・・・。なんだ、あの格好、あいつ何を着てるんだ?」
飯田は本当は目が悪いのだが、眼鏡をかけるとオタクくさいと母親に言われたことを根にもっていて普段は眼鏡をかけていない。なぜなら、自分はオタク達とは一線を画す存在だと思っているからだ。
ソバージュパーマをかけた髪をなびかせながら、黒のヘアバンドを何度も直す。滝のような汗を吸い込んでくれるこの黒いヘアバンドは、青春時代からの飯田の相棒だった。